富士山に笠雲がかかると雨が降る、という言い伝えがあります。天気予報のなかった時代の経験則ですが、いまも語り継がれています。
この言い伝えには数字の裏付けがあります。国土交通省中部地方整備局 富士砂防事務所の資料によれば、笠雲が出たあと24時間以内に雨となる確率は、春と秋で約70%です。
つまり10回のうち7回は当たる目安ということです。ここでは確率の内訳と、雲の形から何が読めるのかを整理します。
この記事でわかること
- 富士山の笠雲のあと24時間以内に雨となる確率が季節で違うこと
- 夏がもっとも高く約75%であること
- つるし雲と同時に出ると約80〜85%まで上がること
- 笠雲とつるし雲ができる仕組みが違うこと
- 雲の形に細かい呼び名が付けられていること
雨になる確率は7割前後
まず数字を並べます。富士砂防事務所が示している季節ごとの確率です。
| 季節 | 24時間以内に雨となる確率 |
|---|---|
| 春・秋 | 約70% |
| 夏 | 約75% |
| 冬 | 約70% |
もっとも高いのは夏の約75%です。春秋と冬は約70%で並びます。
季節による差は5ポイントしかありません。つまり富士山の笠雲は、季節を問わずおおむね7割前後の精度で雨を予告しているということになります。
言い伝えとしては、かなり当たるほうです。逆に言えば、3割は外れます。富士山の笠雲が出たから必ず雨になる、という読み方は正確ではありません。
私がこの数字で実用的だと思ったのは、判断の材料が1つ増えるという点です。天気予報が微妙な日に、富士山が見える場所にいるなら、山頂を見上げるだけで追加の情報が得られます。
つるし雲と同時なら8割超
富士山の笠雲だけを見るより、確率がさらに上がる条件があります。
笠雲とつるし雲が同時に現れた場合、的中率は約80〜85%になると同資料は示しています。
単独の70%から、10ポイント以上上がる計算です。2つの雲が同時に出ているかどうかで、判断の重みが変わるということになります。
つるし雲の出現頻度は、月平均1回程度とされています。毎日見られるものではありませんので、出ていれば注目に値します。年に換算しても12回前後ですから、居合わせること自体が珍しい部類です。
この頻度の低さは、裏を返せば情報としての価値の高さでもあります。ふだん出ていないものが出ているとき、上空の風と湿りがふだんと違う状態にあるということです。
富士山の笠雲を見たら、山頂だけでなく風下側の空も確認してください。そこに浮かんでいる雲があれば、確率は8割の側に寄ります。
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富士山の笠雲とつるし雲は、見た目だけでなく成り立ちが違います。
笠雲は、高層雲が厚くなったものです。低気圧や前線が接近し、暖かく湿った空気が流れ込むときに発生します。
つまり笠雲そのものが、天気を崩す気象条件の産物だということです。雲が雨を呼ぶのではなく、雨をもたらす条件が先にあり、その副産物として雲が見えているという順番になります。
一方のつるし雲は、山頂を通過した上昇気流がロール状に回転し、風下に雲をつくったものです。山が空気の流れをかき乱した結果として現れます。
近年の研究も、この違いを裏づけています。筑波大学と情報通信研究機構のグループが、2019年1月から2021年12月までの3年間、実質7台のカメラで富士山の雲を撮影し、上空3キロ程度にあたる700ヘクトパスカルの気象データと突き合わせました。
その結果、笠雲は暖かい季節の朝に、強めの西南西の風が吹き、山頂付近かより高い所に湿った空気の層があるときに見られると整理されています。つるし雲は南西の風で、湿った空気の層がやや高く、風速の高度差が笠雲より小さいときに出ます。
この研究は英国王立気象学会の専門誌「ウェザー」の電子版に掲載されました。言い伝えの領域だった観天望気が、観測データで裏づけられたことになります。
旗雲は条件が逆
富士山にかかる雲には、もう1種類あります。旗雲です。
同じ研究によれば、旗雲は寒い季節の乾燥した北西の風が吹く日中に多くできます。笠雲が暖かい季節の朝に湿った空気で発生するのと、条件がほぼ反対です。
主要なタイプも整理されています。笠雲は接地笠、つるし雲は楕円型、旗雲は馬のたてがみ型がもっとも多いとされました。
つまり、山頂に雲がかかっていれば何でも雨の前触れというわけではありません。乾いた北西風の冬の昼に見える雲は、別の現象だということです。旗雲を富士山の笠雲と取り違えると、判断が逆になります。
富士山の笠雲を天気の判断に使うなら、季節と時間帯もあわせて見てください。暖かい季節の朝であれば、笠雲の条件に合致します。
登山の判断にどう使うか
確率が分かったところで、富士山の笠雲の実際の使い道を考えます。
7割という数字は、予報の代わりにはなりません。気象庁の予報は複数の観測とモデルにもとづいていますので、雲1つの観察がそれを上回ることはありません。
使えるのは、予報が微妙なときの補強材料としてです。降水確率が40%前後で判断に迷う日に、富士山の笠雲が出ていれば、崩れる側に寄せて考える根拠になります。
とくに効くのが前日の夕方です。24時間以内という枠組みですので、前日に見えた笠雲は翌日の行動時間帯に届きます。出発前夜の確認に向いた指標だということです。
逆に、笠雲が出ていないことを晴れの根拠にはできません。示されているのは「笠雲が出たあとに雨となる確率」であって、「出なければ晴れる確率」ではありません。片側だけの情報だと理解してください。
中止を決めるなら、笠雲とつるし雲の両方がそろった約80〜85%のほうが判断材料として強くなります。単独の70%で予定を落とすのは、やや早い判断です。
富士山の笠雲が見えるのは、当然ながら富士山が見える範囲にいるときだけです。関東や東海の低山であれば行動中に確認できますが、離れた山域では使えません。地域を限定した指標だという前提も押さえておいてください。
形に付けられた呼び名
富士山の笠雲は、形によって細かく呼び分けられてきました。富士砂防事務所の資料は、次の名称を挙げています。
- れんず笠・われ笠・えんとう笠
- はふ笠・ひさし笠・おひき笠
- そのほか、まえかけ笠・なみ笠・うず笠・ふきだし笠・よこすじ笠・すえひろ笠・みだれ笠・かいまき笠
これだけの呼び名があること自体が、麓の人々が長く観察してきた証拠です。1つの山にかかる雲を、形ごとに区別する必要があるほど日常的だったということになります。
ただし、どの名称を挙げるかは資料によって違います。ここでは富士砂防事務所が示しているものだけを引用しました。
観察する側としては、名称を覚える必要はありません。山頂に笠状の雲があるかどうか、風下につるし雲があるかどうかの2点で足ります。
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よくある質問|富士山の笠雲
富士山に笠雲がかかると本当に雨が降りますか?
24時間以内に雨となる確率は、春秋が約70%、夏が約75%、冬が約70%とされています。7割前後は当たりますが、3割は外れます。
もっとも当たる季節はいつですか?
夏です。約75%で、ほかの季節の約70%より5ポイント高くなります。
つるし雲が一緒に出たらどうなりますか?
的中率は約80〜85%に上がります。つるし雲の出現は月平均1回程度ですので、同時に見られたら注目してください。
笠雲とつるし雲は何が違いますか?
笠雲は高層雲が厚くなったもので、低気圧や前線の接近で暖かく湿った空気が流入するときに発生します。つるし雲は山頂を通過した上昇気流がロール状に回転して風下にできます。
旗雲も雨の前触れですか?
条件が逆です。旗雲は寒い季節の乾燥した北西の風が吹く日中に多く現れます。
どこを見れば判断できますか?
山頂に笠状の雲があるかと、風下の空につるし雲があるかの2点です。名称を覚える必要はありません。
まとめ
- 笠雲を見たら7割と考えます。24時間以内に雨となる確率は春秋約70%、夏約75%、冬約70%です。
- 風下の空も確認します。つるし雲が同時に出ていれば、確率は約80〜85%に上がります。
- 季節と時間帯を添えて判断します。暖かい季節の朝が笠雲の条件で、冬の乾いた昼に出る旗雲は別の現象です。
富士山の笠雲は、数字の裏づけがある観天望気です。予報と見比べる材料の1つとして、山頂と風下の空を見上げてみてください。


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